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初めてなのに懐かしい雰囲気の宿「勘九郎」。夕食には、地元の食材を使った料理の数々がテーブルを埋め尽くします。「せっかくだから神津島のいろんなものを食べていってほしい」と繁美さん。娘さんと一緒に一品一品手づくりしています。夜遅くまで星空観賞に出かけるお客さんには、ゆっくり寝てから食べられるようにと朝食におにぎりをこしらえたりすることも。繁美さんも、大工をしている旦那さんも、神津出身。お母さんから継いだ民宿を切り盛りしています。
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最近は星空を目当てに来るお客さんも増えたそう。「昼は天上山に登ったり海水浴したり楽しみがあるけど、夜は時間があるからね。『星空を見てきます』って出かけるお客さんにはよたね広場や赤崎を紹介するよ」。ジェット船が新造船されたり、星空保護区に認定されたりして、新しく島を訪れる人が増えることを楽しみにしているそうです。勘九郎にお泊りの際は、くれぐれもおなかを空かせてお越しください。
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「昨日、星がきれいだったよね!」としのぶさん。明け方4時頃、グループホームでの宿直帰り、以前より街灯の灯りが落とされた道から見事な北斗七星が見えたそうです。しのぶさんはNPO法人潮彩の会の代表をしており、障害者や高齢者の過ごせるグループホームづくりや、地域で働けるような居場所づくりを行っています。それまでは島になかったグループホームを誘致するために苦労された経験と、星空保護区への取り組みを重ねて語ってくれました。
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「最初聞いたときは、正直不信感はありました。『え?このままじゃダメなの?』って」。神津島で生まれ育ったしのぶさんにとっては、きれいな星空はあたり前のもの。わざわざ保護区になる意義がわからなかったそう。しかし説明を聞くなかで、「先の先の子どもたちのための活動という意味では、福祉も観光も一緒。ひとりでもふたりでも必要としている人がいるんだったら、動かなきゃいけない」と共感したしのぶさん。昨日見た星空の美しさに、「ああ、こういうことだったんだ」と納得したそうです。
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島民ガイドをしつつ、「Full Earth」という自身のガイドショップを経営し、星空や天上山ツアーを開催している古谷さん。茨城の自然豊かな場所で育った古谷さんは、自然保護を学ぶ専門学校へ。そのころは星には興味なかったそうですが、卒業後に小笠原諸島でネイチャーガイドをしたときに転機が訪れます。「ツアーに参加した子どもが、自由研究にして見せてくれたんです。そのときに『ああ、自分の好きなものって大事にするよな』って気づいて。ツアーに参加して自然を好きになって、そこから自然を大事にするようになる。観光ガイドが自然保護とつながったきっかけでした」。
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ガイドに目覚めた古谷さんは、ニュージーランドのテカポで経験を積み、2018年に神津島に移住。ガイドで起業しようと移住先を探すなかで、神津島の人々のあたたかさに触れ移住を決めました。天体望遠鏡を使ったツアーが売りのFull Earthですが、これからもやりたいことは盛りだくさん。「少し急ぎ足で星空保護区になりましたが、これからゆっくり育てていけばいい。いつか高校生が『おれ、星空ガイドのバイトをしたんだ!』なんていうことがあるとうれしいですね」と楽しそうに話てくれました。
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「北です、南です、みなみです」という紹介で場を和ませて、みなみさんの星空ツアーは始まります。家族連れ、カップル、女子旅など、参加者によって繰り出す話は変幻自在。人気映画を題材にしたり、ロマンチックな星座物語を語りながらツアーは進みます。誘われるままに始めたガイドですが、そこからどっぷりと星の世界にはまり、いまでは夫婦そろって「流星群見に行こうよ」という会話が自然に出てくるほどになりました。
みなみさんの仕事は学童保育ですが、さすが星空ガイド、いろいろと工夫して子どもたちに星の楽しさを伝えています。たとえば子どもに太陽と地球役になってもらい、なぜ夏に天の川がよく見えるのか体感してもらったり。「せっかくこの土地に育ってるんだったら、その土地に魅力を感じてほしい。あれもない、これもない島だけど、でもうちにはすごい星空があるんだよって」。高校卒業を機にいったん島を離れる子どもが多いですが、ふるさとに誇りを持てるようにとの思いで活動を続けています。
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