東京都初の
星空保護区に

「神津島の星空を子どもたちへ」
を合言葉に思いをひとつに。
神津島は2020年12月、東京都初の
星空保護区に認定されました。

「神津島の星空を子どもたちへ」
を合言葉に思いをひとつに。
神津島は2020年12月、東京都初の
星空保護区に認定されました。

星空保護区とは

星空保護区の目的と条件

「星空保護区」とは、光害の影響のない、暗く美しい夜空を保護・保存するための優れた取り組みを称える国際認定制度です。2001年に国際ダークスカイ協会が活動を始め、これまでに世界各地で累計100,000㎢以上の夜空を保護してきました。

星空保護区は単に「星がきれいに見える場所」ではありません。光害から夜を守ることを目的としているため、光害対策をして暗さが基準値に達しているか、光害に関する教育プログラムやイベントを行っているかなどが、認定の条件になります。

夜の暗闇を守ることは、野生動物の保護やエネルギー節減といった環境面に寄与するだけでありません。人間本来の生活リズムを取り戻したり、夜という普遍的な資源から示唆を得たりすることにもつながっているのです。

神津島は絶滅危惧種「カンムリウミスズメ」の生息地。光害対策は野鳥保護にもつながる。

世界のさまざまな星空保護区

保護区にはダークスカイ・コミュニティやダークスカイ・パークなど、場所の特性によって5つのカテゴリーがありますが、全てのカテゴリーの認定地を総称して日本では「星空保護区」と呼びます。2020年12月現在、世界には150ヶ所の保護区があります。なかでもニュージーランドのテカポやナミビア共和国のナミブ砂漠、アイルランド・ケリー州にあるアイベラ半島などは、特に星空が美しいことで有名で、日本からの観光客にも人気があります。

日本では2018年3月に西表石垣国立公園が、続いて2020年12月に神津島がダークスカイ・パークに認定されました。他にも国内のいくつかの地域が申請に向けて準備を進めています。

ニュージーランドのテカポ

神津島の星空の特徴

地理的な特徴

神津島は、東京から南へ約180km、伊豆諸島の真ん中あたりに位置します。神津島港を中心に、1900人ほどの島民の多くが西側の集落に集中する「一村一集落」なので、集落の周辺を少し離れると外灯もまばらになります。そのため夜の暗さと星明りが際立ちます。

昼間は式根島や三宅島も見渡せますが、夜に星空観賞の妨げになるほど、他の島から出る光で影響を受けることはありません。ほどよい高低差があり、東西に開けた浜辺もあるので、星空観賞に適した地形と言えます。

周辺地図

暮らしに溶け込んだ星空

神津島はキンメダイ漁を中心に、昔から漁業が盛んな島。漁師たちはまだ暗いうちから、満天の星のもと出港していきます。島の中学と高校は、校庭から前浜海岸を見渡せる立地。子どもたちは夕日や一番星を見ながら下校していきます。海から見たり、学校から見たり、島のどこにいてもきれいな星空がある生活を島の人々は送っているのです。

このように島全体で星空を楽しめる神津島。保護区の認定カテゴリは「ダークスカイ・パーク」ですが、島全体まるごと認定されたという特徴から「ダークスカイ・アイランド」の呼称を使用することが認められています。

保護区に向けた取り組み

街灯の取り替え

神津島では2019年夏頃から、星空保護区の申請に向けて準備を進めてきました。そして最もポイントとなるのが、夜空に光がもれない光害対策型の街灯・防犯灯に取り替える事業です。すべての街灯を取り替えるといういうのはコストも時間もかかる事業ですが、東京都のバックアップもあって急速に進められ、2021年1月現在で島内の街灯・防犯灯536基のうち約9割の取り替えが完了しました。2022年3月末までにはすべて改修される予定です。

住民からの評判も良く、安全性を心配する声もほとんどありません。「あそこはもっと暗くできるのではないか」といった積極的な声も挙がったそうです。

街灯改修前 街灯改修後

光害対策型の街灯は、従来と比べて上方への光の漏れと眩しさを抑えている。

島民ガイドの育成

光害に関する普及啓発活動やイベントが定期的に実施されていることも、認定条件のひとつです。そこで評価されたのが「島民ガイドによる星空観賞会」。星空保護区申請に取り組む前からスタートしていた事業です。

2016年から、島民自らが星空案内できるようにと始まった「神津島星空ガイド養成講座」では 四季を代表する星座や、星座のルーツ、星の見つけ方、月の文化などを座学と実地で学びます。講座を受けた「島民ガイド」による星空ツアーは神津島観光の目玉にもなり、多い時にはひと晩に20人近く参加することもあります。

島民ガイドに案内してもらう

島民理解の広まり

光害に関する啓発として大事なのが、島民への説明です。街灯の明るさを落とすと言われると、安全面を不安視する声が挙がってもおかしくありません。小さな島なので、保護区認定によるオーバーツーリズムの懸念などもあるでしょう。

島では「神津島村星空公園条例」や「神津島村の美しい星空を守る光害防止条例」といった条例整備に加え、住民に向けた講演会を開催して住民理解を促していきました。結果として、前述のとおり街灯取り替えを不安視する声は少なく、自分たちには当たり前だった「きれいな星空」を再発見するきっかけとなったようです。

島の人々と「星空」

星空保護区に込めた思い

国際ダークスカイ協会では、夜空は「遺産」であると言います。古来から人々は星を道しるべに旅をしたり、星空から科学や文学の着想を得たりしてきました。昔の人が見上げ、わたしたちが子どもの頃に見上げた星空を、いまに取り戻す。そして、ずっと先の子どもたちにもつないでいく。そんな人類共通の遺産を守っていくために、星空保護区としての神津島の取り組みは続いていきます。